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院長のひとりごと

昨日の常識、今日の非常識~新しい生活スタイルと新しい診療スタイル~

投稿日:2020.05.31

3月下旬、首都圏を中心に外出を控えるよう、感染爆発をするかしないかこの2週間がカギ!との声明から始まり、4/7緊急事態宣言が発出、1ヶ月の自粛要請に我々日本国民は自発的によく我慢したもんだ!と思います。しかし、もう一息とのことでこれは延長され、これらをトータルすると約8週間にも及ぶ自粛生活からやっと5/14日、首都圏などを除き全国の大部分の地域で解消されました(その後25日には全ての地域で解除)。

そして新たに始まったのがcovid-19との共存、「新しい生活スタイル」です。

耳鼻科診療においても、従来普通に行われていたことが色々と変化し、出来ないことが大変増えました。出来なくなったものをざっと挙げてみると

  1. ネブライザー(診察の後の吸入)
  2. 鼻やのどの内視鏡
  3. 鼻血の焼灼止血
  4. 鼻のレーザー手術
  5. 鼓膜切開

と、日常的に行っている診療内容からはこの辺りが列挙されます。

まず、①ネブライザーについては、感染症系の学会より「ネブライザー」という項目がひとくくりされて、感染拡大のリスクとされてしまいました。その後、今日時点では耳鼻科におけるネブライザーは感染の根拠はないものの、クラスターには絶対ならないとまでは言えないので疑わしい症例では避けろ!とか、十分な換気のうえ行うこと。といった感じの内容に緩和されてきました。しかし、疑わしい?は何をもって?、どの症状なら疑う?など、無症状の発症者(無症候性キャリア)がいるとされる以上、現場ではリスク回避のため、なかなかネブライザー再開に至っていません。

次に②鼻やのどの内視鏡ですが、副鼻腔炎や咽喉頭炎などに対し耳鼻科ではよく行われる検査ですが、内視鏡試行中にくしゃみや咳などをされると、飛沫感染(エアロゾル)のリスクになることから、基本やめなさい。やるのであれば完全防護具(フルPPE)のうえ気を付けてやりなさいよ!ということが推奨されました。現在でも基本、感染症状がある際は避けるべきとありますが、感染予防策を講じたうえで必要に応じ行うように!となってきました。

同様に、③は、焼灼時のミストの発生は、感染リスクを非常に高めることから当初は、CTにて肺炎像がないことを確認し、PCRにて陰性を確認してから行うこと。とあり平たく言えば絶対するな(つまり、ここまでの検査を事前に行える施設は大病院を除き皆無に等しいことから)ということでした。現在もリスクは高いとされており、極力さけ、どうしても必要であれば、短時間で終了するよう心がけ、慎重に症例を検討するよう言われています。

④も③とほぼ同様の理由から、一時外科手術は全身麻酔、局所麻酔を問わず緊急以外ほぼ全ての手術が国内で延期もしくは中止となったのではないかと思いますが、全身麻酔下での定期手術はこれから少しずつ再開され始めるようです。診療所での局所麻酔下での手術は感染リスクの判断が出来ないことから今はまだ難しいでしょう。今後抗体検査などの普及や診断精度などにより、再開を検討したいと考えています。

⑤は急性中耳炎で鼓膜切開を必要とした際、貯留液内にウイルスが混在している可能性が示唆されており、それを吸引したときに飛沫感染のリスクになると言われています。よって、滲出性中耳炎のような慢性的な状態での切開、排膿は多分にそのリスクは少ないだろう!というのが現在の見解です。

耳鼻科の診療は、処置が中心に行われるため、皆さんの中にもすっかり定着した「ソーシャル ディスタンス」を冒してとても近い距離で診察を行います。鼻の処置中や口の中を観察している最中に咳やくしゃみをされることは茶飯事なため、これまでも「いやだなぁ」とは思うものの新型インフルエンザの時でさえ、「うつされるかも⁉」という危機感はさほど持っていませんでした。私も医師になって四半世紀を超えますが、口の中をみるのに「怖い!」と感じながら診察を行うようになったのは初めてです。また、お子さんの診察では泣かれることも常ですが、「子供が泣くこと=エアロゾル(飛沫感染)のリスク」と捉えざるを得ない事態となり、状況により処置や所見をとることを積極的に行ってはいけない!ということがスタンダードとなってしまいました。これまでの「診断をつけるために情報を得る」というスタンスから「常に感染リスクを念頭に置き、可能な範囲で情報を得て診断を得る」、そしてそれは感染を疑う、疑わないに関わらず常に感染防防御の観点から、診療においても不要不急、無理は避けるというように顕著に変わったのです。

眼科や小児科、そして耳鼻科は特に患者数の激減が言われていますが、そのようなある種「暇」な状態にあったにも関わらず、「いつ誰が持ち込むか分からない」、「私だけでなくスタッフを感染させてはいけない」、そして知らぬうちに「我々が感染源となってうつしてはいけない!(無症候性キャリア)」と、この3つを常に念頭においた状態での診療は精神的にもボディーブローのように徐々に効いてきて、かつ出来ることの制限が多い中、まるで手足をもぎ取られて診療を行っているようで、毎日なんでこんなに疲れるんだろう⁉と思うほど、かなりの疲労に見舞われました。

第2波、3波は確実にあるだろう、を念頭に感染者数はかなり減っている現状ではありますが、油断することなくその時々において出来る範囲の診療を行いながら、このcovid-19との付き合い方を考えていかなければなりません。

つい数ヶ月前まで当たり前のように行っていた診療内容はあからさまな変化を遂げてしまいました。昨日の常識はもはや今日の非常識…。
新しい常識、新しい診療スタイルを学会等のガイドラインを参考としながら模索の日々が続きそうです。