「花粉症と初期治療!」
いよいよスギ花粉の本覚飛散が目前となってきました(2/11現在)。既に症状が出始めた方からいつも2月後半から症状が出る方まで皆、症状の出方は様々。宇都宮近辺は例年2月20日前後からスギ花粉の本格飛散が開始します。
今回は以下の内容で、盛りだくさんでお届けします!
スギ花粉飛散開始日と症状の出現
これは花粉を測定する装置があり、これにより1㎠あたり1個以上の花粉が2日以上続けて観察されると花粉の飛散が始まった!と環境省より発表されます。これを契機に日々花粉量は一気に増えていくことから多くの方がスギ花粉に暴露され、花粉症の症状が出現するのです。しかし、飛散開始以前よりわずかながら花粉は飛び始めており、花粉に対する感受性の高い方はその時期から症状を認めるようになります。
治療の開始時期~初期治療について~
スギ花粉症はスギに対するアレルギー反応。つまり免疫の過剰な反応がアレルギーです。毎年多くの方が鼻水ダラダラで、鼻先はまるで赤鼻のトナカイのように…、目のこすりすぎで充血したり、瞼の腫れなどそれはそれはひどそうな状態でクリニックへ来院されます。つまりこれらはアレルギー反応がそこまで進んでしまった状態で来られるわけです。さあ、ではそこから治療を開始して症状に追いつき、それを鎮静化するにはどれくらい時間を要するのでしょうか。そう考えると、1度や2度薬を服薬したからといってすぐに症状を抑えるのは難しそうだな!って何となくイメージしていただけますでしょうか。
そこでよく言われる治療におけるキーワードとして「初期治療」があります。これは花粉症の症状が出始める少し前、もしくは出てすぐの症状がまだひどくない段階でアレルギー反応を抑えにかかる「治療のタイミング!」を意味する言葉になります。かつては「飛散開始の2週間ほど前!」でしたり、最近だと「1週間ほど前!」と言われることが多いのではないでしょうか。よって、一般論で考えると宇都宮近辺の方は2月20の1週間前とした場合、バレンタインデー頃から服薬を開始するのが1つの目安となります。
ただ、これには問題が2点あるように外来診療にて感じています。
1つは「飛散開始日は目安であり確定的ではないこと!」
その年の気候、天候により飛散量は勿論、飛散開始時期も当然異なってきます。暖冬の年なら当然早まり、寒波が続いたり悪天候が多い年では遅くなる。かつて私が住んでいた金沢では、雪の降る日が多かったせいで例年の1か月近くも飛散が遅れた年もありました。
2つめは「飛散開始後も発症時期が個人により異なること!」
飛散が開始されたからといって、すべての方が「よーい・ドン!」で症状が出始めるわけではありません。ある程度飛散量(=花粉への暴露量)が増えてきて症状が出る方もおられます。そのような方が飛散開始1週間前から薬を飲み始めるのは前段階の初期治療としては少々期間が長すぎやしないか?(2週間前から開始をしたとすればなおの事!)というのが個人的な見解です。よって、最近は少しでも症状を感じて「アレ、もしかしたら!」と思ったらそれを合図に治療を開始してください!とお伝えするようにしています。
初期治療についてこちらのサイト内「花粉症の基礎知識 → 花粉症の治療」に分かりやすく記されていますので宜しければどうぞ!
http://kafun-now.com/
初期治療開始のポイント!
- わずかにでも「花粉症かな?」と思う症状を感じたら服薬など治療を開始する。
(特に花粉の飛散開始前から発症する方はこれをスタートの合図と思って!!)
- そのためには症状の出る前に医療機関を受診する。
症状が出てからだと、出てしまった症状に追いつきそれを抑えるのに時間がかかることがあります。また外来が混雑し始めることもあり、当院では症状がまだであっても「時期になったから来た!」で結構ですので早めに受診して頂くようお勧めしています。
花粉症の治療
現在スギ花粉症に対する治療には以下のようなものがあります。
①内服薬や点鼻薬による保存的治療
最もポピュラーな治療法です。くしゃみや鼻水がひどいタイプ、鼻づまりがひどいタイプ、両方ひどいタイプなどにより選択する薬やその組み合わせは異なります。
特に点鼻薬は、以前ある研究会で聞いた内容では、世界的に効果が最も優れていると評価されているのは点鼻薬(ステロイド点鼻)とのこと。但し、その効果が十分発揮されるのは用法通り確実に使用した場合です。日本人は点鼻薬をひどいときのみ使用するなどサボる傾向にあるので、実診療でも「点鼻薬は効かない!」と仰る方はおられます。よって当院では「点鼻薬は用法通りに使用を!点鼻薬がメインで内服薬が脇を固めている!という意識で使用してほしい!」とお伝えしています。眠気の無いものをご希望される方は点鼻薬のみで(確実使用で)十分大丈夫!という方も当院では多数いらっしゃいます。
②減感作治療
アレルギーの原因であるスギ花粉をごく微量ずつ与え続けることで身体を慣らし、アレルギー反応(過敏反応)を起こりづらくする治療法。かつては皮下注射しかありませんでしたが、現在は舌下免疫療法として口腔内へ垂らす治療法が主力となってきました。これが出た当初、スギ花粉症が治るのでは!と誇大報道がメディアでなされていましたが、最近の傾向としては完全に治すものではなく、症状の出方を軽くするもの。との認識になりつつあるようです(完治する方も何割かいらっしゃいます)。とかく毎年ひどい方などは舌下免疫療法により従来より軽症にすることへ期待がされます。また中には舌下免疫療法によって、スギ花粉の時期も薬が不要になる方もいらっしゃるようです。
この治療は開始初期にかゆみや口内炎などの副反応が起こることがあるため、スギ花粉症の時期には開始できません。開始は時期をずらす必要があります。
※舌下免疫治療をご希望される方はこちらをご覧ください
③外科的治療
日帰りで行える外科治療としては鼻水や鼻づまりの元となる下鼻甲介という部位の鼻粘膜をレーザーや高周波などを用いて焼灼する方法があります。施設によっては薬液にて焼く方法を行っているところもあるようです。これは鼻づまりには効果が得やすいですが、鼻水にはさほど効果を期待できません(軽減する方も中にはいますが)。いくつかの論文では鼻水にも効果が期待できるといったものも過去にはありましたが、私の経験では鼻水に対し劇的に効果があったケースはほぼいらっしゃいませんでした。
また、この治療にて花粉症を軽減させようとした場合、焼灼後の創部が治らないと効果が発揮されません。よって花粉症対策として行う場合前年の夏~遅くとも秋までには治療を済ませておく必要があります。
かつて私が大学病院で日帰りの外科治療を多く行っていた当時は、学会でも通年性アレルギー(1年中症状がある方、よってホコリやダニなど他のアレルギーの方)を中心とした報告が主で、花粉症に対してはまだこれからの課題という位置づけでした。その理由として粘膜を焼灼してまで治療をしたほうが良い方というのは、「年中鼻づまりがとてもひどく、薬を365日手放せないほどの重症の方」を対象としていたからです。その方たちのひどい状況や鼻内の所見も患者、医師共に分かっていたからこそ、この治療法を選択しようかどうか患者さんと共に判断、選択ができました。しかし花粉症の場合は、治療を行うのが症状のない時期で、患者さん本人の主観しか(毎年ひどいんだ…など)判断材料がありません。その方のひどさがどの程度か客観的にみる方法がなかなかないのです。そのような理由からこれまで私は花粉症の方へレーザ治療などはあまりお勧めしてきませんでした。しかしここ数年、花粉の飛散量は多く、運動部の生徒など、とてもひどい状態の方をたくさん拝見します。花粉症の鼻づまりを軽減させたい方は、ぜひ花粉症時期に受診していただき鼻づまりの状態を確認させてください。そのうえで治療の適応を判断し、その季節にはレーザー治療は行えませんが、ゴールデンウィークを過ぎて鼻の状態が落ち着いてきたら治療の予定を考えたいと思います。
④ステロイド筋肉注射
かつては芸能人がテレビで「1回注射を打ってもらったら花粉症の時期症状が出ないから楽だ!」と公共の電波に乗せてよく言っていた時代がありました。今でもそのような対処をされている方も診察時チラホラお聞きします。しかし、ステロイドの筋肉注射はその後トラブルへと発展したケースも少なからずあるようで、「鼻アレルギー診療ガイドライン2016」において「重症度に応じた花粉症に対する治療法の選択」の中にもステロイドの筋肉注射は記されていません。<当院ではこの治療は行っておりません>
民間療法や代替療法(鼻うがいやアロマコロン)と防御の併用
当院で扱っている民間療法には鼻うがいとアロマコロンの2つがあります。
鼻うがいは帰宅後などにぬるま湯で鼻内を洗浄し、付着した花粉を洗い流すことで症状の軽減化を目的としたもの。当初は副鼻腔炎などで汚い鼻水がかみづらかったり、鼻が通らない方を中心に薬が長期化した際お勧めしていましたが、花粉症においても併用される方が少しずつ増えてきました。耳鼻科の診察で鼻吸いやネブライザー(吸入)が上手にできるお子さんでは3~4歳でも上手に鼻うがいが出来る子が多いので、鼻を洗うことへの恐怖心は実際行ってみると皆さん「鼻がスッキリした!」と仰る方のほうが多くみられます。
また、アロマコロンはユーカリラジアタやペパーミント、ティートリー、真正ラベンダー、カユプテを配合したもので、スプレータイプになっていることからデュフューザーを要しません。また、全てオーガニック素材ですので衣服に枕にとどこにでも1プッシュ振りかけるだけでご使用いただけます。他にもタオルをレンジで蒸しタオルにし、そこにかけて頂いたり、お風呂にかけてアロマバスなど特に鼻づまり傾向の方にご自由にお使いいただけます。
そしてこれら民間療法の最大の特徴は妊婦さんや赤ちゃんなど薬が使用できなかったり、極力避けたい場面の方には何も一切気にすることなくご使用いただけること、また時間と場所を選ばずにいつでもご利用できることがメリットと言えます。
最後、防御について…
いくら薬を使用したり、変更したり、組み合わせで使用しても原因である花粉が無防備に鼻内へ侵入する限り治療効果には限界があります。薬の効果は一定ですが、花粉量は時期により場所により、天候により様々変わります。よくピーク時に「効いていた薬が効かなくなった!」ということを伺います。それは薬の効き目を花粉量が追い越してしまったからなのです。よって薬が効かないのではなく、それ以上にアレルギー反応が活発化してしまっているわけですから、どうやって極力鼻内へ侵入する花粉量を減らそうか!?これは積極的に行う必要のある対処であり治療の一環なのです。これがどうしても出来ない場面があります。典型的なのは屋外スポーツの部活動をしている学生や生徒さんです。野球の練習中マスクをしてくれ!は確かに絶対無理な依頼内容となってしまいます。毎年こういった方への対処はとても困難を要していますが、このような場合はやはり減感作療法の併用がひとつの可能性となるのかもしれません。
いずれにせよ、何事も防御が肝心。マスクやゴーグル、外に布団を干さない、帰宅時花粉を払うなど可能なディフェンスは積極的にしていただき、そのうえでオフェンスとなる薬の使用といった対処を是非併用していただきたいと思います。