上咽頭擦過療法(EAT)について
注意事項
大変申し訳ございませんが、喫煙習慣のある方はEAT処置を行う前に、まずは禁煙してください。喫煙は慢性的に咽頭粘膜の炎症を引き起こします。辛い思いをしてEAT治療を行ってもタバコによって炎症を引き起こすため、治療効果を得ることができません。タバコを吸われる方は禁煙をお願いします。禁煙しても、今あるお辛い症状が改善しない場合にご受診ください。
IgA腎症の方へのEATは当院では積極的には行っておりませんが、ご希望される場合はどうぞご相談ください。また、当院での治療は「指定難病の医療費助成制度」の対象とはなりませんのであらかじめご注意ください。
「鼻水がのどに下りる」「のどのイガイガが続く」「痰の絡みが取れない」「のどの奥がつまった感じがする」という方で長年苦しんでいる、もしくは治療をしていても、よくならない原因は「慢性上咽頭炎」によるものかもしれません。
当院では慢性上咽頭炎に対する上咽頭擦過療法(EAT[イート] Bスポット療法)を行っています。
※当院は、EAT 慢性上咽頭炎治療 医療機関一覧(日本病巣疾患研究会)にリストアップされています(2023.5現在)。
「慢性上咽頭炎」とは…?
鼻の奥の「上咽頭」に炎症が起こった状態を指しますが、上咽頭炎の原因としては、まだハッキリと分かっていないことも多く、その中で言われているものとしては下記があげられます。
- 細菌やウイルス感染
- 体の冷え
- 疲労
- ストレス
- 空気の乾燥
- 鼻閉を起こす疾患(アレルギー性鼻炎など)
- 後鼻漏を起こす疾患(副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎など)の影響
- 逆流性食道炎
なお、上咽頭は免疫の役割があり、細菌やウイルスが侵入するとすぐに免疫(リンパ球)が活性化します。吸った空気の最初の関所が上咽頭であり、この免疫応答の関係から「生理的炎症部位」とも言われ、健康な人でも常に軽い炎症を認めています。この炎症がある程度強く(病的な炎症)なり、症状が気になる場合に、治療を行うことになります。この部位に慢性的な炎症が起こると「慢性上咽頭炎」として様々な症状に関与していると言われています。
「鼻水がのどに下りる」「朝起きると痰が絡む」「のどがイガイガする」「のどの奥がつまった感じがする」このような自覚症状を長年持っており、耳鼻咽喉科や内科を受診しても「異常ありません」であったり、「痰を切れやすくするお薬を出しておきます」と去痰薬などを処方されても症状の改善に至らない方は意外と多くみられます。
患者さんはのどの奥に違和感を感じるのですが、意外なことにその原因は鼻の奥(上咽頭)にあることが多いのです。
症状について
(1)上咽頭の症状
慢性上咽頭炎の症状として以下のようなものがあげられます。
上咽頭炎により、「のどの上のほうの痛み」「鼻とのどの間(上咽頭)の痛みや違和感、乾燥感」が起こります。「風邪のひきはじめがいつものどの違和感から始まる」という人は慢性上咽頭炎が背景にあるかもしれません。
また、上咽頭は発声との関連も言われており、上咽頭炎により声の出しにくさ(特にナ行の発声)も起こり得ます。
(2)後鼻漏
上咽頭炎では、上咽頭からの粘液分泌が通常よりも増加し、これがのどへ下りてきます(後鼻漏)。後鼻漏は副鼻腔炎などで起こる場合と、上咽頭炎で起こる場合があります。
後鼻漏が増えると、痰がからんだ感じや咳払い、のどの違和感、つまり感、声の出しにくさも起こります。とくに後鼻漏が色付き(膿性)になっている場合は、鼻の奥がにおう感じや、口臭が気になる場合もあります。
(3)上咽頭炎に関連した痛み
上咽頭炎に関連する痛みとして、のどの痛み(扁桃炎のようなのどの痛み・のどの奥の方の痛みなど)、首のこり、肩こり、頭痛、頭重感がみられます。その他、頬骨のあたりの痛み、耳の下の痛みが起こるといった実際に痛みを感じる部分が異なる症状がみられることもあります。
(4)上咽頭の隣接部位への影響
上咽頭と耳の奥(中耳)とは、耳管という管でつながっており、ふだん中耳の換気を行っています。上咽頭炎により耳管の上咽頭側の出口(耳管咽頭口)付近の粘膜や筋肉に異常をきたすと、耳管狭窄症や耳管開放症といった耳管に関連した疾患のもととなり、耳がつまった感じ(耳閉感)や自分の声が響く(自声強調)症状が出る可能性があります。
他、慢性上咽頭炎から自律神経を介して起こり得る症状として、だるさ(倦怠感)、めまい、睡眠障害(不眠・過眠)、起立性調節障害、記憶力や集中力の低下、下痢・腹痛などの過敏性腸症候群、胃もたれや胃痛、むずむず脚症候群、慢性疲労症候群などが言われています。
治療について
上咽頭擦過療法(EAT:Epipharyngeal Abrasive Therapy〈イート〉)
慢性上咽頭炎に関連する全身症状が多彩なことから、局所への有効な治療を行えば様々な症状や疾患に効果があるかもしれない!という考えから、1960年代に東京医科歯科大学耳鼻咽喉科の堀口申作名誉教授により提唱された治療法です。当時は治療する部位:鼻咽腔(びいんくう:Biinnkuu)のBを取ってBスポット療法(鼻咽腔(上咽頭)塩化亜鉛塗布療法)と呼ばれていました。
豆知識
しかし、80年代以降この治療は衰退していきます。
その原因として当時万病に効くという論調だったようで、それが結果的に医師の猜疑心を招いたことや、痛みを伴う治療であることから「あの耳鼻科にかかったら、痛い治療をされた!」という悪い評判が広まるのは好ましくない…などがあったようです。
しかし、近年EATが再評価されてきており、2010年代には上咽頭炎や病巣炎症についての全国的な研究会(日本病巣疾患研究会)も発足されました。
他インターネットでも、EATを受けて効果が得られた患者さんの口コミが増え、EATを施行される施設が再び増えてきているようです。
このEATは上咽頭に薬液を付けた綿棒などを擦り付ける方法です。これにより現在3つの効果があると言われています。
- 薬剤による上咽頭の消炎効果:
抗炎症作用による上咽頭の炎症を鎮静化。 - 瀉血作用:
慢性上咽頭炎でみられる上咽頭の高度なうっ血状態は脳の老廃物を脳脊髄液から静脈系への排泄やリンパ流の機能を低下させるであろうことから、これらの改善に寄与すると言われています。 - 迷走神経刺激反射:
迷走神経が通る上咽頭はEATに伴う迷走神経刺激によりこの治療に伴う様々な症状の改善と密接に関与している可能性があります。
EATの効果はこの3つの機序に大別されており、後鼻漏や頭痛、咽頭違和感、咳、微熱などの改善は主に①と関連します。また、だるさやめまい、睡眠障害などの自律神経障害による症状の改善には②と③の機序が関与します。
(日本病巣疾患研究会HPより)
こんな症状が続いている場合や先行治療でも改善が見られない方へ、当院ではEATを試されることをおすすめしています。
- たびたびのどが痛くなる(のどが弱い)
- 鼻の奥の違和感、乾燥感
- 粘っこいものが、鼻とのどの間に貼りつく
- 鼻水がのどに下りる(後鼻漏)
- 痰がからみやすい、咳払いが多い
- のどに違和感、つまった感じ
- 声が出しにくい
- 鼻の奥がにおう、口臭
- のどの不調に伴う首のこり、肩こり、頭痛、頭重感
- 耳閉感(耳がつまった感じ)
治療期間
週に1~2回、2~3ヶ月間治療を継続されることをおすすめします。その理由として、慢性炎症の改善には2~3ヶ月ほど必要とされているからです。
EATによりしみるような痛みがあったり、耳の奥に放散痛が出たりする方もいますが、つまりそれだけ上咽頭の炎症が強いことを意味しており治療効果が期待されます。
また、上咽頭炎と他の鼻疾患(副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など)を合併している方は、ほかの鼻疾患も並行して治療を行います。
治療効果
治療終了の判断基準は
- 症状が気にならない程度になった
- 綿棒に血液が付着しなくなった
- 治療時のしみる感じがなくなった
の3点で、①を最も重要視しています。
逆にEATが効きにくいケースをあげてみました。
- 生活習慣(喫煙・飲酒)、環境(睡眠不足、ハードワーク、空気の乾燥など。特に睡眠は大切です。)
- 鼻の中がせまく、のどの反射が強い方(上咽頭に薬剤を塗布しにくい)
- 定期的に受診できない
- ほかに呼吸器疾患のある方での「痰のからみ」の症状(EATで痰が改善する可能性もありますが、内科での治療継続も必要です)
- 上咽頭の腫れが強い場合
- 患者さん自身の免疫力
- 粘っこい後鼻漏が主に鼻粘膜由来(慢性鼻炎)の場合などは、治療に時間を要したり、治癒に至らないことがあります。
- 鼻閉などにより普段から口呼吸(もしくは鼻呼吸と口呼吸の混在)
最後に…
最後までお読みいただきありがとうございました。
症状が完治までいかなくてもある程度軽減する可能性はありますので、痛みを伴う決して心地よい処置ではありませんが、ご自身が該当するなと思われる方は頑張ってしばらく治療を行ってみませんか。